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  • 執筆者の写真mitei

140字SS群「屁理屈と御託」

「私の気持ち、@(user)には分からないよ」

彼女はそう言った。 そうだ。僕には分からない。 人間は本質的に分かり合えない生き物だ。しかし今、彼女の目の前でそんなことを口走るわけにはいかないだろう。かといって心にもない言葉で取り繕う気にもならず、僕は口をつぐんだままでいた。「ほらね」。


「あの…@(user)、この後って空いてる?」そらきた。「悪いけど、この後は映画を観に」と、用意しておいた回答を口にする。彼女が予定を聞いてくるのは分かっていたし、断るのに嘘をつくのも嫌なので、前もって予定を入れておいたのだ。 が、しかし。「ちょうど良かった!私、映画のタダ券持ってるの」


「@(user)さん、いつもそれ食べてますね」 私の手にはねじりパン。声の主である彼女は隣に腰掛け、巾着から弁当箱を取り出す。「甘いのばっか食べてたら良くないですよ。そうだ、ひじき食べます?これ」私はいやいいよ、と断り、パンをかじった。「じゃあそれ一口下さいよ」。何が「じゃあ」なのか。



「@(user)、そういうとこあるよね」「自分で駄目だと思わないの?」思う。それはもう痛いほどに。図星を突いてくる目の前の人間が憎たらしくなり、悪態をついてしまう。ならお前が何とかしてくれ。「嫌だね。俺がどうにかできることじゃないって分かってるだろ、自分で」そうなのだ。腹立たしい奴め。



「仲間ってそんなに大事?私には分からない」と、紙パックを潰しながら彼女は言う。大事だよ。人間には一人で出来ないことが多い。僕がそう言うと、彼女は顔をしかめた。「そんなの出来ないままでいいじゃん、人間の完成形は自己完結だよ。君も本当はそう思ってるんでしょ。@(user)はいつも嘘ばっか」



「俺、@(user)さんのそういうトコ、本当に軽蔑しますよ。」彼は続ける。「分かったような顔してるけど、全部机上の空論なんすよ、あんたのは」。私は財布から千円を取り出し、ソーサーとテーブルの間に挟ませた。鞄と上着を手にし、そのまま黙って席を立つ。「ほら、自分本位!」と、背後で声がした。



「また逃げるの」逃げるよ。「@(user)、逃げてばっかじゃん。恥ずかしくないの」恥ずかしくはない。悲哀。知らなければ存在しないのと同じって知ってた?と僕が言うと、「あんたのそういうの、本当に嫌い」と言われてしまった。逃げは勝ちじゃないし死も負けじゃない、ただ苦しむのが嫌なだけなのに。



人生は勝ち負けじゃない。気休めではなく、僕は本当にそう思っているのだ。しかし。「人生は勝ち負けですよ」と彼女は主張する。「頭脳でも容姿でも、自分は勝ってる!と思えるものが一つでもあるほうがいいに決まってます」「@(user)さんにはそう思えるもの、ありますか?」論点をずらされたような。

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